第4話

白雪の指摘は全て正しい。これ以上、無理を通そうとすれば、言葉通り、彼女は外に出ることをやめてしまうだろう。


 それは、本意ではない。


 結局、渋々ではあるものの、彼女の言葉に従うしかないのだ。



「……わかりました。確かに、準備に時間がかかってしまったのもいけませんでしたし」


「せっかく、姫様と花を愛でられると思いましたのに……!」


「また、その機があれば、ね」



 そう言って、白雪はタレ目の女性の向こう側――自分の姉である緋雪を見た。


 緋雪がはっとしたように白雪に手を伸ばそうとすると、それまで何も言わずに、ただ成り行きを見ているだけだった己の女房達が一斉に飛びかかるようにして、緋雪の行動を止めた。



「姫様! いけません!」


「おやめください!!」


「――ッ、離しなさい!」



 そう、命じるように声をあげたのに、誰一人として聞く耳を持たない。主人たる己の言葉に従わないとは。あとで何かしらの罰を与えてやると心の中で思っていると、白雪が深く頭を下げた。



「それでは、失礼させていただきます。緋雪様」


「白雪ッ!!」



 名を呼んだのにそれにすら反応してくれず、白雪はさっと背中を見せてそのまま歩いていってしまった。その背を守るように、先ほどの二人が白雪の背につき、一緒に去っていく。


 しばらく、その場で呆然としていたはずなのに、気づけばいつの間にやら“華の宴”の会場に戻ってきていた。


 浮かべたくもない笑みを浮かべ、愛想を振りまき、やり過ごしていく。


 何度もため息を飲み込んで。


 “華の宴”が終わったのは、すっかり夜も更けてからだった。





 遠くのその音を聞きながら、白雪は自分が落ち込んでいるのを自覚していた。



(酷い態度を取ってしまった……)



 姉である緋雪は家族の中で唯一、自分に声をかけ、気にかけてくれている人だ。


 いつまでもこんな態度を取っていたら、嫌われてしまう。


 そう分かっているのに、今の白雪はどうすればいいのか分からない。幼い頃からずっと厳しい監視の下で過ごしてきたため、誰かに甘えることができないのだ。


 それをすれば、酷い罵詈雑言が、さらに酷ければ体を痛めつけられた。


 その痛みの記憶が、白雪を素直にさせてくれないのだ。


 そんな風に落ち込んでいる白雪を見て、後ろをついてきた二人は小さく苦笑をもらす。この、いつも頑なな少女は、彼女を唯一気にかけている姉にまつわることとなれば、きちんと年相応の行動をしてくれるのだ。

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