第3話
そんな根も葉もない言葉を“真実”として受け止めている愚か者ばかりが、己の周りを取り囲んでいるのだ。
と。
「――我らが姫に、何をなさっているのか伺っても?」
凛とした声が割って入ってきた。その声に、緋雪はほっと安堵し、己の周りを囲んでいる女房達は小さく悲鳴をあげる。
緋雪が伸ばした背筋のまま振り返れば、そこには元々きつい目を、さらにきつく釣り上げている女性に、その後ろにはタレ目をさらに困惑で下げ、白雪を心配そうに見つめる女性の二人が立っている。
「……姫様、遅くなりました」
「え、あ、あの……」
「さ、白雪様。ここはとても騒がしいですから、もう少し離れたところに移動しましょう。そうすれば、ゆっくり静かに、花を愛でられますから」
「え? あ、いえ、その…そういう訳ではなくて……」
「さ、立ち上がってくださいませ。嫌なら、このわたしが、恐れながら――抱き上げます」
頭を下げ続けている白雪に、タレ目の女性が声をかけ、そして会話を続けていく。
まさか抱き上げるとまで言われるとは思わず、白雪は驚いて頭をあげて相手を見つめてしまう。と、いつの間にそんなにも近くに来ていたのか、本当にすぐ目の前に女性を認めて、白雪は悲鳴が出そうになるのをなんとか飲み込んだ。
「あら……残念。あともう少しでしたのに……」
心の底から残念そうに言われて、白雪は困惑したまま、それでも言った。
「……抱き上げるのはやめてって、何度もお願いしたわ」
「ええ。ですが、“命令”された訳ではございませんから」
「……」
なんだか虚しい気もするけれど、これからも気をつけなければと心の中で誓い、そして、小さく息を吸って吐いた。
「……お部屋にこもるわ」
そう言って立ち上がった白雪に否を唱えたのは、三人。
緋雪と、つり目の女性と、タレ目の女性。
「何を言っているの、あなたはわたくしと今から“華の宴”に出るのよ!」
「みすみすお部屋に返すと思いますか?」
「やはり、実力行使の方がよろしいのかしら?」
「…………」
何故自分が追い詰められているのか全く理解できない。
それでも、白雪は一つずつ答えを返していった。
「まず、私が“華の宴”に出て仕舞えば大混乱が起きることは分かっておられるはずです。それに、私は約束通り、外に出て、花を愛でたわ。私は約束を守り、あなた達を満足させたはずなのに、これ以上実力行使に出るのなら、もう二度と、部屋からは出ない」
白雪の言葉に、三人はぐっと言葉に詰まる。
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