第2話
軽く――本当に周りには気付かれない程のため息をつくと、緋雪が白雪と視線を合わせるために屈みこもうとした瞬間、周りの女房が甲高い声でそれを止めた。
「姫様! 何をなさろうとしているのですか!?」
「妹と、目を合わせて話そうとすることの何が悪いというのかしら」
「いけません! そのような者の目を見るなど!!」
「呪われてしまいますわ!」
「急ぎ、ここから去るべきです!」
口々に勝手なことを言い始めた女房たちに、今度は隠すことなく大きく、深いため息を吐く。
「あなたたちは、自分が誰に対して、何を言っているのか分かっているの?」
屈みかけていた体を起こして、緋雪がそう問いかければ全員が、まだ頭を下げている白雪を見、そして、何かおぞましいものでも見たかのように顔をしかめ、そして、吐き捨てた。
「――今、そこにいる者は姫様の妹君ではございません。妖に見初められた、化け物にございます」
分かっていたことだった。知っていることだった。
それなのに。
――やっぱり、こうして直接言われると胸が痛むのは、まだ、己に人の心が残っている証だと。そう思ってもいいのだろうか。
静寂が辺りを包み込み、しんとした空間が作り出される。その中で、微かな怒りの感情を感じ取ることができているのは、不思議と白雪のみだった。
緋雪が何かを言おうとしているのに気づき、白雪は少し慌てて言葉を発する。
「緋雪様、勝手なことをしてしまい、申し訳ございませんでした」
「……白雪、何を言っているの?」
「この度の咎は、すべて私の勝手な行動とし、罰をお与えください。甘んじて、全てを受け入れます」
「――ッ、白雪ッ!!」
我慢の限界だったのだろう。緋雪が白雪の言葉を咎めるように大声を上げれば、彼女の周りにいた女房たちが、その時を待っていたかのように嬉々として言葉を吐き出し始める。
「もちろん、緋雪様がお前のようなものを許されるはずがないわ!」
「緋雪様、このように、人の心など持ち合わせていない者に、気を使われることなど!」
「その通りです、緋雪様!」
「緋雪様ッ!!」
「――ッ、少しは黙りなさい! お前たちは、誰に何を言っているのか、分かっているの!?」
同じ言葉を繰り返して、緋雪は己の周りを取り囲んでいる女達を見る。
しかし、その全ての瞳が、今、足元で、まるで土下座でもするようにうずくまっている少女を軽蔑する色を宿し、そして緋雪に訴えかけている。
――早く、この場から離れましょう、と。
――ここにいては、呪いを受けます、と。
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