紅の鬼姫と異界の統治者
1
第1話
私も、それが欲しいと何度も願い、そして諦めた。
どうしたって手に入らないものは存在するのだと、理解させられたから。
それでも。
――それでも、心の奥底で、本当に欲している私を。
――お願い。あばかないで。
*
自分に求められているものがなんなのか分かるかと問われれば、曖昧な答えを返すと、自分でも思う。それは、きっと現実としてそれを受け入れたくないから。
けれど、本当はわかってもいる。
だから、はっきりと答えることもできるのだ。
――この存在を、隠すように生きること、と。
「何故、ここにいるのですか」
それは、責めるような言葉。ぼんやりと座って外を眺めていただけなのだが、はっとしたように声のした方を向けば、そこには思い切り顔をしかめた、自分の美しい姉が立っていた。
瞬間に言い訳を考えたけれど何も思い浮かばず、顔を隠すように俯く。
「わたくしは、何故と聞いているのです。答えなさい」
「……“華の宴”に参加できないので、こちらで、私なりに花を愛でておりました」
ぽつり、と少女が呟けば、姉の周りにいる女房たちがざわりと騒ぐ。
口々に「恐ろしい」や「何と恥知らずな」と、罵る言葉たちが飛んでくるのを聞きながら、少女をうつ向けたままの頭を少しだけ揺らす。
周りが、恐怖に引きつった悲鳴を喉の奥で出す。
それに慌てて、少女はさらに顔を俯かせる。
耳が痛くなるほどの悲鳴をあげらるのは、正直にごめん被る。
ぐぐっと、まるで土下座でもしているかのような格好になったことに、相手を満足させることができたのか、嘲笑が上から降ってくる。
「あなたは、我が左京院のニノ姫であるのよ。それを自覚しているの?」
「……この左京院には姫は一人しか存在しておりません」
「それは世間に公表している偽りよ。事実、あなたはこの家に存在しているの。その自覚をきちんとしているのかと、わたくしは聞いているの」
そんなことを言われても、いないと言われている存在が、まるでここが己の居場所だとでも言うように振る舞うのは、とてもおかしな話であると、聡明な姉であればわかると思うのだが、この姉は、何故かそれを認めない。
いつ、どんな時でも、「あなたは左京院のニノ姫」と言い張っているのだ。
何故そこまでこだわるのか、全くわからないけれど、少女もそれに関しては頑なに首を横に振っていた。
「私などに、この家の家名を名乗ることなどできません。
「わたくしは、あなたの姉よ、白雪」
「それでも、私はあなた様を軽々しく“姉”と慕うことはできません」
顔をうつ向けて、ともすれば、まるで許しを請うように頭を下げているように見える少女――白雪を、見下ろしている姉である緋雪。
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