第10話

「私の気持ちを、感情を、なんであんたや! ヨルやヨリ、護衛騎士!! 私以外の人に決められないといけない訳!? 私はお人形じゃないの、あなたと同じ感情を持っている生き物なの。わかってる!?」


「……!」


「私の気持ちは私だけのもので! あなたに勝手決められるものじゃない! 私の気持ちを、勝手に決めつけないでよ! 私は、とっくに心揺れてるんだから!!」



 広い広い大広間。多分、玉座の間的なところに連れてこられていたんだと思う。そんなところで、私が勝手に引き抜いた侍女2人と護衛騎士、それに、多分彼を守ための騎士様が数人いるだけの広間に、私の怒声が鳴り響く。


 勝手に決められる感情が、こんなにも腹立たしいものだなんて、思っていなかった。


 だからこそ、私の口から出てきた言葉は、多分私の中で燻っている本気の本音で。


 そして気づいた。


 周りの人が、何故か微笑ましく私を見つめていることに。


 ……なに、この空気。


 そろりと私は自分が引っ掴んでいる男を見る。微かに俯いて体を震わせているところ見て、あ、嵌められたと本能的に感じ取った。


 慌てて体を離そうとしたけれど、逆に男に抱きしめられてそれはできなくなった。



「ぎゃあーーーーーっ!!」


「お嫁さんっ!! 熱烈な告白っ!!」


「告白っ!? した記憶ありませんけど!? てか、はなせ変態っ!!」


「ああ、久しぶりの罵倒! なんかほっとするね!」


「変態っ!!」



 なんなんだこいつ!! 全く懲りてないんですけど!?



「離して離して!! 帰る、帰るーっ!!」


「押してダメなら引いてみろって、本当なんだね。長かった、一年半……。でも効果は絶大だね!!」


「はぁっ!? 本当にふざけるな! 帰るわよ! もう帰る! 帰せるんでしょ!? 返しなさいよ!!」


「そうそう。まさかはったりも聞くとは思わなかったな。君大丈夫? 変なツボとか買わされないように気をつけようね?」


「腹立つな! てか帰れないの!?」


「最初に説明したでしょう。君を、逃さないために、ここの食べ物を勝手に食べさせたって。元々逃すつもりなんてなかったしね?」


「嘘つき!! 変態嘘つきやろうーっ!! なんなのよぉーっ!!」



 めっちゃ騙された! 演技できすぎでしょ!? あれ、私が騙されやすすぎるのか!? もうわけわかんない!



「帰すことは絶対にできないけれど、“通信”はできるよ?」


「……は?」



 思わぬ言葉に、私はジタバタと暴れさせていた体の動きを止めて、間抜けな声を出した。

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