第7話



 求婚をされてから、すでに一年と三ヶ月。逃げ続けている私はすごいと思う。うん。



「おーよめさーん!!」


「変態が来たわよ、駆逐しなさい」


「駆逐っ!?」


「もしくは殺虫剤をかして。害虫に向かって噴射するわ!!」


「まって、その対象は俺!?」


「あなた以外に誰がいるのよ!」


「君の真後ろにいるよ!?」


「なに言ってるの! この人は私のわがままを叶え続けてくれているめっちゃくちゃ優しい人なのよ!? この人貶すなんて許せない! やっぱり駆逐しましょう!」


「待って待って待って! 俺が君の運命だから! 俺が君の旦那さんになるから!!」


「認めてない」


「一言で終わらせた!!」



 ……はい、信じられますか? こーんなくだらない言い合いをこの一年と三ヶ月、ずーっと続けています。大人になれよって話ですよね、はい。ごめんなさい。


 でもさ、ほら。突然降って湧いてきた相手に突然求婚するとか正直信じられなくないですか?


 しかも、結婚するなんて一言も言っていないにもかかわらず、あんな辞書みたいな分厚いウェディングドレスの資料を持ってこられたら、そりゃ引きますとも!


 私なにも悪くない。


 いい加減に諦めればいいものを! と、私が思っているのと同じことを相手もきっと思っているんだろうな……。


 似た者同士か。



「俺が入れた紅茶だよ! 媚薬入りだよ! たくさん飲んで!」


「……あー、テガスベッター」


「わーっ!? 貴重なものなのにーっ!!」


「湧いた頭でなに言ってるんでしょうね、というかこのお茶会的なものに参加しようとした私がバカだったのね。よし、帰ろう」


「待って待って待って! まだ全然お話できてないっ!!」


「十分会話をしたわ。十分ね。さ、お部屋に戻りましょうか。ここにあるものは食べられなさそうだから、自室でおやつをもらうわ。もちろん、この男の関与がないと証明してくれない限り、私は一切手をつけないからね」


「そこまで信用してないっ!?」


「いまここで、媚薬入りの紅茶を出したあんたの言葉を何故信じられると思ってるのかが信じられないわ」


「お嫁さーん…そろそろ子供が欲しいんだよ、俺は」


「黙らせておきなさい!!」



 そう言って、私はいま常に侍女のどちらかに預けているハリセンをサッと受け取り、それで相手を叩いてから部屋に戻ったのだった。


 ……ハリセンで叩かれたとき、相手が何故か喜んでいるような気がするのは気のせいだとおもおう。気にしたらダメなやつだから!

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