第6話
……疲れた。私の憩いの時間は夜だけなのね……。
ようやく一人になれたこの時間を存分に堪能しなければ。
それにしても、もうここに一年もいるのか、私。……地球のみんなは元気なんだろうか。お父さんもお母さんも、妹も…。私が突然いなくなったことに心配しているに決まっている。
……ああ、妹と一緒に古都へ旅行へ行きたいわ。思う存分に遊びまわって、美味しいものを食べて、ホテルでのんびりとした時間を過ごして…。あ、やばい、思い出したら泣けてきた。
ぐず、と鼻水をすすりモゾモゾとベッドに沈んでいると、私の部屋の扉を勝手に開ける音が響いてきた。多分、ヨリかヨルが私が明日着るための服を持ってきてくれたのだろうと思ってそのまま無視していると、何故か、私が眠っているベッドにモゾモゾと入ってくる気配がする。
何事!?
「……君は、いつもそうやって一人で泣くんだね」
「!!」
そう言って、涙で濡れた私の瞳を見つめながら、王子様を名乗っていた彼が私にそっと手を伸ばす。
そっと体を寄せて、私の体を抱きしめる。
温かなその温度を感じながら、私はそれに既視感を覚えつつ、モゾモゾと抵抗のようなことをしてみる。
……ただただ、はずかしいんです。
そう思っていると、彼の体がスッと動いて、私の頭を自分の心臓に押し付けるようにして抱き抱える。ぴこん、と私の猫耳が彼の心臓の音を拾い上げて、それは全力疾走したときのような速さの心音を聞いて、何故か私の方が恥ずかしくなる。
と、油断していた。
耳に裏側に、当たった柔らかな感触に声が小さく漏れて、体もピクッと反応する。
ちゅ、ちゅと、軽いリップ音をわざと響かせながら、彼は行動をやめない。ふわふわと漂う甘い甘い香りに思考が溶かされていくような感覚になり、抵抗が弱くなってしまう。
と。
「きゃあっ!?」
はむ、と私の耳を甘噛みしてきたことに驚いて悲鳴が上がる。それでも、その声に甘えがなかったかと言えば、ないとは言えない。
恥ずかしさに身を縮めていると、行為がどんどんとエスカレートしていく。やばい、このままではなんかやばい気がする……っ!!
けれど、争い難い甘い匂いに、体がいうことを聞かない。でも、このままでは……!!
「……っ、いい、加減に、しろ、この変態ーっ!!」
「ぐふっ!!」
頭を固定されているだけで、他は自由だった私は、今出せる渾身の力を振り絞って、いかがわしいことをしようとしてきた相手の鳩尾に、拳を思い切り叩き込んだのだった。
ふぅ……すっきり!!
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