第5話



 長い長い年月が経って、私がここにきて、すでに一年が過ぎようとしていた。……なんなのよ。私になんの恨みがある。


 神様と言うものがあるのなら、もういっそ地獄に落ちてもいいから呪詛してやる。呪ってやる。倍返しどんとこい!!



「お嫁さん、いい加減、俺に名前を教えない?」


「いやよ」


「なんで? 毎日毎晩、その名前を優しくささやくよ!」


「気持ち悪いこと言わないで。というか近い。顔面にこのあっつい紅茶ぶっかけるわよ」


「君からの愛だね! 喜んで!!」


「……ね、あなたたちもこの光景に慣れたからって無視しないで。助けて、お願い」



 そう言って、私は自分のそばにずっとずっといてくれている侍女二人と、引き抜いてきてしまった護衛さんにヘルプを訴える。けれど、何故か微笑ましい表情を見られて終わることが最近はとても多い。


 何故だ、解せぬ。



「それよりも、そろそろウエディングドレスを一緒に選ぼう! どんな感じに物がいい? やっぱり白は絶対に着て欲しい物だからそれは外せないとして、ほかに何か希望の色はある? 着替えのドレスもたくさん用意しよう!」



 そう言って、資料をばさばさっと机の上に広げる。……待って、その厚みの資料をお前はどこに隠し持っていたんだ。


 分厚いよ。なにその辞書かと思うほどの紙の束。



「色々と流行物の普通のドレスとか、昔はやったやつでも、また流行させたいものとか、そう言った意見を聞いていたら資料がとんでもないことになってしまったんだ。でも、二人で見れば楽しいよね?」


「どこがっ!? 見るのだけでも大変そうだよ!?」


「娯楽程度に思ってくれればそれでいいよ。なにが選ばれるのかはきみしだいで、選ばれない確率の方が高いって言ってあるんだから」


「なにその責任問題! 私に押し付けないでよ!?」


「押し付けていないよ! でも、やっぱりいいものを選んで欲しいじゃない? 大丈夫、生地とかは王宮で使っている最高級のもので、作らせるから肌触り滑らか! それは約束するよ、後はデザインだけなんだから、肩の力を抜いて?」


「そもそも話として! 私はあなたと結婚しません! だいたい、あなた品種ペルシャ猫でしょう!? 適度な距離保ちなさいよ! 昔ネットで見たわよ!!」


「適度な距離を保っているよ? だって、こんなにも離れているじゃないか」


「通常の距離よ!?」


「本来ならば、一部の隙もないほどにくっついていたいのに、それが許されないから適度な距離を保っているんだよ」


「変態っ!!」



 この単語を叫んだのは、もう何百回目になるんだろう…。

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