第55話

「祐希?」



俺に抱きつく祐希の体は震えていて。



心底、心配になる。




「ゆ……」




「……抱いて欲しいの……」





「……は?」




一瞬、何を言われたのか理解出来なかった。




聞き間違いかとも思った。




でも、祐希の顔は真剣で。




「本気で言ってるの?」







「うん……」




恐る恐る聞いた言葉の返事は肯定の言葉で。





“したい”と思う気持ちと“したくない”って気持ちで揺れ動く。




言うならば本能と理性。




自分で自分に嫌気がさした。




あぁ、俺も男なんだなって。




でも……。




「ダメだよ……」




やっぱりダメだ。



抱くのは。




祐希は健が好きだから。



きっと俺に抱かれても後々、後悔する。




辛い表情を浮かべる祐希の顔を見れなくて俺はそっと目を伏せた。

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