第56話

「どうして……?」




祐希は泣きそうな声で俺に理由を求めてくる。




「祐希のこと…大事だから…好きでもない俺に抱かれちゃダメ」




大事だから。



傷つけたくないから。



だから抱けない。




「一度だけでも……いいの」




「……ダメだって……」




一度だけなんて、無理だ。




抱いてしまったら……もう戻れない。




過ちは消せない。




俺はいい。



でも、祐希は……。




「……もういい……」




祐希はベットから立ち上がって、部屋を出ていこうとする。




「待って……」




俺は咄嗟に祐希の腕を掴んで引き止めた。




このまま離したら、祐希に二度と会えない気がして。




「……なに…?」




祐希は顔を歪ませて目を細める。



そんな祐希に怯みそうになった。




「どこに行くの?」




「……涼には関係ない…」




“関係ない”



祐希に言われた言葉が頭の中に反響する。

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