第2話

家族は兄の受験失敗で疲弊しきり、誰も言葉を交わさない。

兄弟喧嘩であたしへ振るった暴力は、母親にまで及んだ。


引き籠もりになった兄から逃げる様に母親は出て行き

父親は若い女と同棲中らしく、この街で歩いているのを目撃した。


「ねぇパパ!帰って来て!」

何度も哀願した。そして無視された。


知らない人みたいに?

違うよ。


存在しない様に無視されたの。


会いたくはない。

若い女に向けるイヤらしい笑顔も見たくない。

あんな冷たい無視も、耐えられない。


この街に居るのは

家の最寄り駅から15分の学校の有る町とは真反対だから。


朝15分掛けてお利口なあたしを演じ

夜15分掛けて時間を消費しに来る。


その往復は計1時間。一日の内、1時間は何処に居ようかと考えなくて済む。

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