第38話

「忘れ物はない?財布は持った?切符は?」



沈黙が気まずくて思わず質問責めにする。


そんな私を見てきょうちゃんは「オカンか」とクスクス笑った。



言われて気になったのか、安心させたいのか、ポケットから切符を取り出す。



“ほら”と自信満々に見せてくれた手には確かに切符が握られてた。


それはいいけど、ポケットから手を抜いた拍子に新居の物と思わしき鍵が落っこちる。



しかも全然気付いてない。



おいおいおい、ドジっ子か。


落とした事にも気付かないなんて心配だ。


先が思いやられる。




「もー、落ちたよ」


「ごめん」


「危ないなー。気を付けなきゃ」



軽く注意をしながら落ちた鍵を拾ってきょうちゃんに差し出す。


しかし、きょうちゃんは受け取ろうとしなかった。


穏やかに笑って私を見つめるだけ。




「そっちの鍵はあやのところに置いていこうかな」


「はい?」


「失くしたら困るから預かっててよ」


「え、でも……」


「平気、平気。もう1本あるし」




ニコニコ穏やかに笑って、きょうちゃんは取り出した2本目の鍵をヒラヒラと目の前に翳した。



私が差し出した鍵は行き場を無くして手の中。

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