第35話

「それはないかな」


「え、違う?」


「流石にこれだけ頻繁に会ってれば、付き合ってるかどうかくらいの判断はつくでしょ」


「そりゃ、まぁ…」


「今も昔も俺らの関係はくまでも友達だよ。口だけで言えばね」



いつもみたいにヘラヘラと笑ってきょうちゃんは曖昧なことを言って振り向いた。


スクランブル交差点の直ぐ傍、信号がチカチカ光って赤に変わる。




「口だけで言えば……って何それ?実際は違うってこと?」


「そうだね。誰がどう見ても違うんじゃない?」


「じゃあ、本当は恋人なの?」


「んー、それも違うかな。あやとは恋人とかそういう替えがあるような関係にはなりたくないし」


「はい?」


「なんて言うかさ、失くしたくないものは意地でも傍に置いておきたい主義なんだよ、俺」


「う、うん」


「だからあやとは口だけではくつがえせない関係で居たい」




訳の分からないことを言ってきょうちゃんは手を上げてタクシーを停めた。


そのまま私を連れて何の迷いもなくきょうちゃんの家に向かう。



頭の中は「?」でいっぱい。


だけど、きょうちゃんはそれ以上何も教えてくれなかった。


謎は謎のまま。


すっかり話が普通の会話に切り替わる。

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