第14話ラグナロク

そこには、あの森に消えていった少年が立っていた。

相変わらず静かな笑顔が包まれていた。

「ロレーヌ、その力を使っちゃダメだよ。そのままだたとあの人も動くよ」

〝あの人〟?

「そうなんだ。もしかしてと思っていたけど、違うんだ」

ロレーヌも少年と同じように笑った。

「一応止めたからね」

少年はロレーヌに向かって言った。

ロレーヌは返すように、言った。

「あの人以外には、いえ、あの人にも私はとめられないわ」

ロレーヌは白黒の翼を大きく広げると、翼を羽ばたかせた。オッドアイが怪しく輝くと、時間が回り出した。

ロレーヌの力と少年の力が拮抗していたが、少年の笑顔はまだそのままであった。

「一応、〝アイツ〟と約束したからね」

少年はそう言うと、ロレーヌの美しい額にデコピンをした。軽く指を振っただけのように見えたがロレーヌの額は真っ赤になっていた。

その一撃でロレーヌの力を封じてしまった。

ロレーヌはどうしていいか、分からなくなっていた。

そのときであった、天を一条の光が差し込み、その光の中に、影が表れた。

「マエストロ、済みません」

とても落ち着いた声であった。

「父さま、父さまは口を出さない約束では」

ロレーヌが父さまと呼ぶ男は困ったような顔をした。

「ロレーヌ、君の力が私を超えて世界の有り様までかえてしまうのは流石に見逃せないんだよ。でも、私には君を止める力はないから、彼に託したんだ」

マエストロと呼ばれた少年は面白く無さそうに肩をすくめた。

ロレーヌはそんな少年に視線を向けた。

「貴方か誰かは知らないけど、この世界の事に口出ししないでもらえる」

「僕には僕の役目があるからね」

マエストロは少年の見た目からは、不釣り合いに落ち着いた物言いであった。

その言葉にロレーヌが反応した。

念を込めると、足元の石を物凄い勢いでマエストロに向かって飛ばした。

マエストロがふっと息を吹くと、石はロレーヌの額に当たると、先程まで、赤く腫れていたのが嘘のように本に戻っていた。

「ロレーヌ、お仕置きの時間だ」

その言葉が合図のように、ラグナロクの舞台が3倍位の広さに広がり、マエストロとロレーヌ、そしてロレーヌが父と呼ぶ3人以外はラグナロクの舞台の外に運ばれていた。

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