30
タクシーに乗り込んだ車内でも、琉輝さんは私の手を握って離さなかった。
それがうれしくて仕方なくて、ニヤニヤと顔が自然に緩んでしまう。
「今度、一緒に叔母さんに会いに行こう」
「それは……琉輝さんに多大な迷惑をかけることになります」
叔母と面識のない彼を連れて行ったら、私とどういう関係なのかと当然聞かれるだろう。
ずっと好きだった人で恋人関係になったのだと正直に伝えるしかないけれど、琉輝さんが鳴宮財閥の人間だとわかれば、きっと叔母は目の色を変えるはずだ。
そのような恥ずかしい振る舞いを彼に見せたくない。
「謝っても叔母は絶対に私を許さないと思います。それにビックリするくらい拝金主義だから……」
「謝罪する気はないよ。見合いを無理強いしたのは叔母さんのほうだし、翠々はもう十分謝ったじゃないか」
一週間前の記憶が鮮明によみがえってくると、また泣きたくなってきた。
叔母に再び頭を下げたとしても、お見合いをした光永さんの元へ嫁ぐ気はない。それだけは絶対に変わらない。
「翠々の役に立つなら鳴宮の家に生まれたのも悪くないな。叔母さんがうちを気に入ってくれるとしたら願ったり叶ったりだ」
「琉輝さん……」
「翠々にとって身内と呼べるのは叔母さんだけだろ? なんとか関係を修復出来たらいいな」
やはり彼は私よりもずっと大人だ。
私は心のどこかであきらめていたし、このまま縁を切られるならそのほうが今後は楽かもしれないとすら思っていた。
だけどそんな叔母でも、琉輝さんは私が天涯孤独にならないように仲を取り持とうとしてくれている。
こんなふうに思いやりにあふれたところも大好きだと実感してキュンとした。
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