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「そばにいられないのが悔しくて今まで伝えられなかったけど、ずっと翠々が好きだったんだ。翠々はどう?」

「私は、その……琉輝さんは鳴宮財閥の御曹司で雲の上の人だから、私なんか釣り合わないです」

「それは俺の聞きたい答えじゃないな」


 残念そうに眉毛を下げて苦笑いをする琉輝さんを目にすると、切ない気持ちでいっぱいになった。

 だけどどう考えても名家の財閥御曹司と私では家柄が天と地ほど違う。それは変えられない事実だ。


「正直な気持ちを聞かせてほしい。俺は雲の上にはいないよ。翠々のそばにいるだろ?」

「でも……」

虫唾むしずが走るくらい俺のことが嫌いだ、っていう理由以外は受けつけない」


 余裕たっぷりにおどける琉輝さんを見て、どうしたらいいのかとまごついている自分がバカみたいに思えた。

 小心者で迷ってばかりの私を、彼はいつでも大きな器で受け止めてくれる。こんな男性はほかにはいない。


「私も琉輝さんが好きです。頭がよくてイケメンで、やさしくて大人で……」


 まだ話している途中で唇を塞がれた。琉輝さんの素敵なところをすべて言い連ねるつもりだったのに。


「こんなにうれしいのは生まれて初めてだ」


 こういう誠実で純粋な部分にも私はすごく惹かれている。彼はとても温かい人だ。


「顔が真っ赤。かわいいな」

「そ、それは琉輝さんがこんな場所でキスするからです」


 ふと足を止めて星を眺め、気持ちを伝えあってキスを交わす。そんなロマンチックなシチュエーションに存分に酔いしれた。

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