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◇◇◇


 レストランでの食事を終えた私たちは、空港のタクシー乗り場へと移動した。

 ひとりで帰れると伝えたけれど、琉輝さんはマンションまで私を送っていくと言って聞かなかった。


「あ、今日は空気が澄んでるから星が綺麗ですよ?」


 足を止めて私が夜空を見上げると、琉輝さんもゆっくりとその綺麗な顔を上に向けた。


「満天に輝く星をアメリカで一緒に見ましたよね」

「日本でも見ようって約束したよな。いい場所を探しとくよ」


 二年半前に交わした小さな約束だったのに、彼が覚えていてくれたことがうれしくて思わず顔が綻んだ。


「ボストンに行って本当によかったです。琉輝さんと出会えたから」

「俺にとってもかけがえのない出会いだった」


 長い腕が伸びてきて、あっという間に彼の胸に抱き寄せられる。

 目の前には逞しい胸板が広がっていると意識すると、急激に顔に熱が集まってきた。


「物理的な距離なんて関係なく、俺の心にはずっと翠々がいた」


 思いの丈をやっと口にできたとばかりに、琉輝さんがふんだんに色気を含んだ瞳で私を捕らえる。

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