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「いるかもな。翠々ちゃんかわいいからモテそう」

「おい」

「鳴宮財閥の跡取りがなにを気にしてるんだよ」


 わざわざ告げるつもりはなかったけれど、知り合った当初に親の会社が航空関連だと話したら、壮太は名字から俺が鳴宮財閥だと言い当てた。頭がいい分、勘もするどい。


「わかってると思うけどバラすなよ」

「相変わらずだな。由緒正しい名家を武器にしないなんて俺には考えられない」


 誰かと仲良くなるために鳴宮の名前を利用したくはない。

 家柄なんか関係なく、ひとりの男として見てくれるかどうかが俺にとっては重要だ。

 財閥だと知った途端に目の色が変わるなら、それこそ俺を見ていないという証拠で至極残念な気持ちになる。


 翠々とは仲良くなりたい。だけどそれは俺らしく、俺のやり方でいく。

 ブレない考えのまま、俺は交流会主催のバーベキューに参加した。


 女の子が何人か輪になってしゃべっている中で、純真を絵に描いたような翠々は誰よりも輝いていた。意識しすぎなのかもしれないが、俺にはそう見えた。

 準備を進めているときも、みんなでコンロを囲んでいるときも、俺は積極的に翠々のそばへ行って話しかけた。

 焼けた肉や野菜を皿に取り分けて渡すと、うれしそうににこりと微笑む彼女が本当にかわいくてたまらなくなる。

 もっと話したい、触れてみたい。こんなに心を揺さぶられたのは初めてだ。

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