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「えっと……鳴宮琉輝さんなんですけど」

「弊社の社長でしょうか?」

「……は?」


 なにを言っているのかわからなくて、女性スタッフの顔を呆然と見つめた。

“琉輝”という名前は珍しいと思って伝えたのだけれど、彼女はいったいどういう勘違いをしたのだろう?


「違うと思います。私の言う鳴宮さんはまだ二十代の男性なので、社長さんではないですよ」

「失礼いたしました。しかし鳴宮琉輝という名前の社員はほかには……」


 私がカウンターを間違えたのかもしれないと混乱したが、ここはスターレイル・エアポートで間違いないし、彼女が付けている社章は琉輝さんがしていた物と同じだ。


「すまない。もう大丈夫だから」


 突然真後ろから声がして、驚いて振り向くと琉輝さんが立っていた。

 声をかけられた女性スタッフはホッと安堵した表情を見せ、こちらにていねいにおじぎをしてくれた。


「翠々、行こう」

「い、行くってどこへ?」


 彼から爽やかなフレグランスの香りが漂う中、左手を引っ張られて歩きだした。

 手にしていたペーパーバッグも、いつの間にか私から彼へと移動している。

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