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 事の発端は、叔母が私にとあるお見合い話を持ってきたことだった。

 光永さんは大手フィットネスクラブを運営している社長の長男で、婚活をしているらしいから一度会ってみろと勧められたのだ。

 私はお見合いはしたくないと必死に訴えたのだけれど、叔父の会社のクライアントだから断れば仕事にも影響すると言われ、最後は強引に首を縦に振らされた。


「断るにしたってルールやタイミングがあるのよ。それなのにアンタはその場で結婚できないってはっきり言って帰ってくるなんて、失礼な子ね!」


 お見合いにおいて、相手に直接断る行為は不躾ぶしつけだと言われている。

 合わないと感じてもその場はにこにことしながらお茶を濁すというのが礼儀らしい。

 だけど私はその無礼な行為に及んでしまい、改めて謝りに行った叔母を現在こんなにも怒らせているのだ。


「なにが気に入らなかったの? 今さら聞いても仕方ないけど」


 憎らしいとばかりにフンッと鼻息を荒くし、叔母は運ばれてきたアイスコーヒーのストローに口を付けた。

 私はどこまで正直に話そうかと、叔母のラメ入りのジャケットを見つめながらしばし考える。


「来春に結婚式を挙げる予定で、すでに詳しい日取りが決まってたの。結婚するって私は言ってないのにおかしいでしょう?」


 私の気持ちなんてまるで無視で、どんどん話が進んでいくことに恐怖を覚えた。

 叔父や叔母の顔を立てるためだとはいえ、のこのことお見合いの場に赴いた私がバカだったと、このときようやく気づいたのだ。


「翠々は気に入られたのよ。全部あちらが準備してくださるんだからありがたいじゃない」

「ご両親とは同居で……それどころか寝室もお義母様と一緒にするって」


 さすがに寝室の件は叔母も知らなかったのか、一瞬驚いた顔をしていた。

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