第38話

「あー、やっと家が見えてきた!」

2人が春風邸に着いたのは夕日が沈みかけた頃だった。

朝早くから家を出たので、丸1日外出したことになる。

「遠かったな、王宮」

「本当だよ」

はあ、とザクラはため息をつく。

「あ、そういえば」

星利は突然何かを思い出し、背中に回していたディパックを正面に回す。 そして何かを取り出した。

「星利?」

ザクラは不思議そうにその様子を見る。

「春風、遅くなったけどこれ」

星利は黒い細長い箱をザクラに手渡す。

「ん? なにこれ・・・?」

「この前修理に出した、お前の腕時計だよ」

「え!?」

「お前の様子がおかしかったり、なんやかんやで渡すタイミングがなくて」

「ごめん・・・」

「いや、別に大丈夫。ーーーそれ、開けてみな?」

「うん」

星利に勧められ、ザクラは箱を開ける。

「え、すごい! ちゃんと動いている!」

チクタク、チクタク、と腕時計が動いているのを見たザクラは花が咲いた笑顔になる。ザクラは星利に空箱を預けると、右手首に腕時計をつけた。

「すごいね、職人さんって!」

嬉しそうにザクラは、お気に入りの腕時計を見つめる。

その笑顔は星利がずっと見たかった、満開の花が咲いた笑顔だった。

「・・・そうだな」

「星利、ありがとう。この時計取りに行ってくれて。 家に着いたらお金払うね」

「・・・いや、いいよ」

「え?」

「お前のその笑顔を見れたからそれでいい」

「えっ!?」

そんな星利の言葉を聞いてザクラは動揺する。

「・・・やっと笑ってくれたな、春風」

腕時計が入っていた箱をディパックにしまうと、星利はザクラを見つめる。

「え?」

「なあ、春風」

星利はザクラに歩み寄る。

「うん・・・?」

「お前、ずっとそうやって笑ってろ。お前が笑っていてくれないとさ、こっちまで調子狂うんだよ。いろいろとさ。 もし、笑えないっていうなら、俺が笑わせてやる」

真剣な目で見つめられたザクラは動けない。

「・・・男ってのはさ。見ていたいんだよ、惚れた女の笑顔ってのを」

「え・・・」

ザクラは目を見開く。

「こんなところで、こんなタイミングで言うつもりなんてなかったんだけど。手紙だって渡したから分かっているとは思うけれど」

一度下を見て独り言のようにつぶやくと、星利は顔を上げて、再び真剣な顔でザクラを見つめる。

「・・・俺、春風が好きだ」

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