第35話
「よくぞ参ったな、海救主殿、風丘殿」
「この度はお時間をいただき、誠にありがとうございます」
王宮に着いたのザクラと星利は、目の前の玉座に座る国王に頭を下げる。
「よいよい。 それで、海救主殿。先日の話は考えていただけたのかな?」
「はい」
ザクラはそう返すと、横目でちらりと星利の様子を伺った。だが、星利は見られていることに気づかない。
「まず、結論から申し上げます」
ザクラは視線を国王に戻した。
「恐れながら陛下。 私は、国付きの武術指導者のお話、辞退させていただきとうございます」
「なに!?」
「えっ!?」
ザクラの言葉に国王と星利は驚く。
「は、春風、お前!?」
ザクラはそんな星利を無視するように続ける。
「申し訳ございません、陛下」
ザクラは頭を下げる。
「生まれた時から武術を嗜み、武術を愛してきたそなたがこの話を断るだなんて、少し信じがたい。 なにか他にやりたいことでもあるのかね?」
「はい」
ザクラはスッと頭を上げ、凛とした目で国王を見る。
「私は海救主として旅をしてきました。その旅の中で、たくさんの人に出会い、その度に自分の使命の重さとその願いの強さを感じてきました。時には別れもあり嘆き、涙を流したこともございました」
そう話すザクラを星利は黙って見ている。
「そしてその旅の末に、私たちはウィーン・ウォンドと戦いました。戦いは激しく、1度私と海宝石の精はその力に屈し、息絶えてしまいました。
ですが、私のことを信じてくれた人々の『願い』の声により、再びウィーン・ウォンドと戦い、勝つことができました」
ザクラは首から提げている、海宝石が入っていたペンダントを握りしめる。
「私がウィーン・ウォンドとの戦いに勝ち、世界を救えたのはたくさんの人が私を信じてくれたから。願いを託してくれたから。そう思っております」
ザクラはペンダントを握りしめたまま、まぶたをぎゅっとつむる。
「世界は救われた。ですが、ウィーン・ウォンドが引き起こした影響は大きい。ここ、緑葉国でも甚大な被害が出ていると、仲間から聞いております。
また、先日旅で出会った望月島の姫君が私の家に立ち寄り、望月島での被害について話してくれました。 仲間やまわりの者からは『お前のせいではない』と言われましたが、これは私とウィーン・ウォンドが対戦したことで出たものです。私は、とても、心苦しく思っております」
「春風・・・」
「陛下」
ザクラはペンダントから手を離し、力のこもった瞳で国王を見る。
「私は人々の思いや願いによって救われました。 お許しをいただけるのならば、その救われた恩返しがしたいのです」
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