第33話
それから数日後のある朝。
「お父さん」
道場で竹刀を振るう龍海にザクラが声を掛けた。
「どうした?」
「お父さん。 陛下にお会いするにはどうしたらいい?」
ザクラのその言葉を聞いて龍海は手を止める。
「答え、出たのか?」
「うん」
そう答えたザクラは靴を脱ぎ、道場の中へ入る。
「お父さん、私ーーー」
「・・・そうか。それがお前の答えなんだな?」
ザクラと道場で膝を付き合わせていた龍海は
娘の決意を聞いて、確認するようにザクラに尋ねる。
「うん」
父に決意を話したザクラは力強くうなずく。
「お前はそれでいいんだな?」
「うん」
「・・・そうか」
「お父さん」
「ん?」
「・・・ごめんね。また心配かけることになるね」
ザクラがそう申し訳なさそうに言うと、龍海はため息をつく。
「え・・・」
ザクラはそのため息に怯える。
「今さら何言ってんだ、お前。お前が何をしようと、どの道を選ぼうが、お前は俺の娘だ。娘を心配しない親がどこにいるってんだ」
「お父さん・・・」
「だから、『心配させてごめん』って思うより、自分のやりたいことをやれ」
龍海はそう言って、ザクラによく似た大きな目でザクラを見る。
「なんせ、人っていうのは、いつ死ぬのか分からない生き物だからな。突然病を発症するかもしれないし、事故に遭うかもしれない。俺はお前が海救主として戦ってきた日々をよく知らないが、少なからず、それを感じさせる出来事はあっただろう?」
「うん」
ザクラの脳裏に蘭を目の前で亡くした時のことが蘇る。
「お前の母さんによく似て、誰かのためなら自分のことなんて厭わない。そんか優しすぎるお前のことだ。その痛みだって感じたはずだ」
ザクラはうなずく。
「でもな、ザクラ」
龍海はズッとザクラに近づく。
「俺は、遺された人間が出来ることって、死んでしまった者の無念を晴らすこともあるけど、その人の分まで楽しく生きていくことだと思っている」
どういうことだ、と顔に浮かべてザクラは龍海を見る。
「ザクラ。その人たちのためにも生きろ。自分が後悔しないように、日々を生きていけ。 な?」
「・・・うん」
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