第32話
ザクラside
『春風』
『ごめん、もう疲れたから寝るわ』
そう言って、心配そうな顔をした星利から逃げるように私は自分の部屋に行った。
「・・・疲れた」
部屋に入るなり、ぼふっと布団の上に体を預けた。
ギシっとベッドのスプリングが音を立てる。
一度旅に出る前に王宮に行ったことがあるけれど、あの空間はやはり疲れる。
「・・・国付属の武術指導者か・・・」
『その武術の腕を生かして、国付属の武術指導者にならないか?』
確かに私は物心ついた頃から武術を身につけてきた。 海救主として旅をしてきた時もその腕が生かされてきた。 だから、その話が出て嬉しかった。
だけど何かが心の中で引っかかり、その場でお答えすることができなかった。
『緑葉国でも、ウィーン・ウォンドの影響は大きいのですね』
昼間白羅に久しぶりに会い、その時した会話が脳裏をよぎる。
『緑葉国・・・でも?』
それを聞いた白羅は、しまった、という表情になった。
『な、なんでもございません!!』
『もしかして・・・望月島でも、ウィーン・ウォンドの影響が?』
それを聞いて、白羅は図星を突かれた表情に変わった。
そして観念したようにため息をつくと、口を開いた。
『・・・はい』
『・・・やっぱりか・・・』
ウィーン・ウォンドの力は凄まじい。その力の強さを身を持って知っていたけど、遠く離れた望月島まで影響を与えているとは思ってもいなかった。
『そうか・・・』
ショックを受け思わずため息が出た私を見て、白羅は慌てた。
『ですが、緑葉国よりは被害は出ておりません! それに復興も進んでおりますし!海救主様がお気になさるほどでは・・・!!』
『わかった、ありがとう』
『海救主様・・・』
望月島でさえ、被害が出た。おそらく、他の諸国でも被害が出ているのだろう。
仰向けになり天井を見つめながら、今まで旅してきた国々を思う。
私に世界を救ってほしい、ウィーン・ウォンドを倒してほしい、と願ってくれた人々は無事だろうか。
全てのはじまりの地であり、お母さんの最期の地となったあの場所で挑んだ、ウィーン・ウォンドとの激戦。 戦いは予想を絶するもので、マルリトスとの共闘にも関わらず、私たちはその力に屈してしまった。
だけど、その時たくさんの声が私たちをこの世界に引き戻してくれた。
『ザクラ様!』
『海救主様!』
『ザクラ!』
『ザクラちゃん!』
『春風!』
意識がなかったが、あの世とこの世の境目で聞いた声を忘れられない。ずっとずっと耳に残っている。
あの声が、背中を押してくれた。
あの声があったから、ウィーン・ウォンドを倒すことができた。
『あいつを倒せたのはオレらだけのおかげじゃない。お前を信じてくれた人々のおかげでもある』
戦いが終わった後に星利に言われた言葉、そのままだった。
・・・私、このままのんびりと過ごしていていいのだろうか?
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