第31話
夕食後、疲労したザクラは自室へ行った。
その帰宅したザクラの様子が気になった星利は、その理由を龍海に尋ねた。
「・・・緑葉国付きの武術指導者に・・・ですか?」
「ああ。陛下があいつに直々にな」
「それで・・・あいつはなんて言ったんですか?」
「畏れ多くも『待ってほしい』って返した。
いくら陛下直々のお話でも、すぐには返事を出せないしな。あいつにも考えることがあるんだろう。ありがたいことに、陛下にもご承諾していただいた」
「そうですか・・・」
ーーー幼い頃から武術を嗜み、武術を愛し、海救主でなかったらこの道場を継いでいたという、春風。そんなあいつが、武術指導者になるのを迷っている。 どうしたのだろう。あいつは、一体何に迷っているのだろうか。
龍海に尋ねてみたのはいいものも、なぜザクラがあんな表情をしていたのかと、星利は首を傾げた。
「・・・ザクラが帰ってきた時の様子がそんなに気になるのか?」
「えっ!?」
龍海に指摘され星利は慌てる。
「ま、まあ。仲間・・・ですし・・・」
そうしどろもどろに答えた星利を、龍海は見つめる。
「・・・まあ、それは良い」
しばらく見つめた後、龍海はふっと星利から目線を外した。
威圧感のある目線を外され星利は胸を撫で下ろした。
「俺にも、あいつが何を迷っているのか分からん。 海救主として旅をしてきた時に何が起きたのかも、何を思ってきたのかも俺には分からない。・・・あいつのたった1人の親、父親なのにな」
「龍海さん・・・」
「菫が生きていたら分かったかもしれないな。あいつがどんな思いで海救主という重責を背負ってきたのかを」
そう言った龍海は悲しそうに笑った。
「・・・風丘星利くん。君に頼みがある」
キリッとした強さを含んで龍海が星利の名を呼んだ。
「・・・はい」
「あの子を、ザクラを。どうかこれからも守ってやってほしい」
「え・・・」
「ウィーン・ウォンドを倒したと言って、あの子をここに連れてきて、今まで共に暮らしてきて分かったんだ。君になら、ザクラを託せるって」
「りゅ、龍海さん・・・!?」
片想いの相手の父親にそう言われるとは思っていなかった星利は、突然のことに慌てる。
「それに、君のことをザクラがどれだけ信頼しているのなんて見ていて分かった。 君がどれだけのザクラを大切にしているのかもね」
「え」
全てはお見通しだ、と言わんばかりに龍海は微笑んだ。
「あ、あの! 俺と春風は決してそんな仲では・・・!」
「分かっているよ。でも、他の男ーーー北斗くんは大丈夫だけど。他の男にあいつの側に立ってもらうより、あの子が信頼を寄せる君に立っていてほしいんだ。
母親に似て、何も考えずに突っ走る。 大切なもののためなら己はどうなっても構わない。 頑固で何があっても自分の意志を変えない。 自分には厳しくも周りに優しすぎる。そんなあの子を守ってほしい」
ザクラとよく似た大きなキリッとした瞳で龍海は星利を見つめた。
そして頭を下げた。
「・・・龍海さん・・・」
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