第28話
星利side
「大丈夫ですよ。昨日いらっしゃった時にご一緒でしたし」
あれから俺は、慌てて昨日あいつと訪れたあの時計屋に向かった。
本人の代理で来たことを告げると、店員はそう返した。
「少しお待ち下さい」
店員は俺の差し出した引き換えの紙を引き取ると、奥に消えた。
「お待たせいたしました」
数分後、店員はあの緑色のトレーを持って現れた。
「こちら、昨日お預かりしておりました、腕時計でお間違いありませんか?」
「は、はい・・・」
差し出しされたトレーの上では、春風の腕時計が再び時を刻んでいた。
「すごい・・・ちゃんと動いている」
「ありがとうございます」
あいつに渡したらすごく喜んでくれるのだろうな。
ウィーン・ウォンドと戦う前に見せた、あいつの、あの花が咲くような笑顔を再び見たい。
なにしろ、元気がないあいつを笑顔にさせたい。
腕時計を見たあいつの笑顔が頭に浮かび、つい顔が緩んでしまう。
「腕時計、直ったことを知ったら彼女さん喜びますね」
店員のその言葉に動揺し、支払いのために出した小銭を盛大に床にぶちまけてしまった。
「か、彼女!?」
俺は慌てて小銭を拾う。
「あれ!? もしかして違いましたか?」
「は、はい・・・」
小銭を拾い終えた俺は顔を上げる。
ーーーどうせまた、赤い顔をしてんだろうな・・・。
「こ、これは失礼いたしました! あまりにもお似合いでしたので・・・」
店員は慌てて頭を下げる。
「いえいえ、大丈夫ですから・・・」
俺は店員をなだめる。
「ありがとうございましたー」
支払いを済ませ腕時計を引き取った俺は店を後にする。
そんな俺をすっかり涼しくなった秋の風が通り過ぎていく。
都市から少し離れたここには、実りの季節を迎えた田畑が広がっていた。
そんな畑では人々が収穫に追われていた。
「ここの畑は、被害を受けてないのか・・・」
ウィーン・ウォンドの戦いの影響で町は荒れた。
でも、それなりに復興してきている。そして、影響を受けていない場所では、以前のように時が流れていく。
『やっぱり、ウィーン・ウォンドとの戦いで・・・なんだよね?』
そう言って、中身のなくなったガラスの筒のペンダントを握った、春風の姿が思い浮かぶ。
明らかにウィーン・ウォンドの力のせいなのに、それを自分のせいでもある、と責任を背負おうとするあいつ。
ーーーウィーン・ウォンドの戦いが終わってから、あいつの足はそこで止まったままなのか。
「・・・はぁー・・・」
そんなことに気づき、思わずため息が出た。
腕時計の入った店の袋を見る。
あの戦いを春風と共に終え、直るか分からなかったこの時計でさえ直り、再び時を刻みはじめた。
あいつもいい加減立ち直って、再び時を刻んでいってほしい。
「・・・ったく、めんどくせえ奴を好きになっちまったな」
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