第20話

「お待たせしました、行きましょうか。 星香さん。

ーーーって、あれ?」

出かける準備を終えたザクラは、玄関で自分を待っている人物を見て驚いた。

「あれ、星利?」

「おう」

「え、星香さんは?」

「え、もしかして・・・姉貴から聞いてねえの?」

ザクラはうなずいた。

「姉貴、突然病院からヘルプ頼まれたらしくて。どうしても断れなかったんだってよ。で、俺が代わりに行くことになった」

「あー、なるほどね」

ザクラは納得した。

「というか、姉貴、どんだけ急いでいたんだよ。俺はともかく、春風本人ぐらいには言っていけよな」

星利はそう言ってため息をつく。

「まあまあ、星香さんも慌てていたんだよ、きっと」

ザクラはそう言って苦笑する。

「それにわざわざ付き添いだなんて。病院っていったって近所だし、私1人でも行けるし」

「いやいや、なんかあったら困るからな?!

お前が海救主だった、ということを世間はまだ忘れてないし、ウィーン・ウォンドの残党だってまだいるかもしれないだろ?」

「そうだけどさぁ・・・」

『海救主だった』頃、1人で知らない町だろうと歩いていたザクラは、少し気にいらない、という顔をする。

「それにさ」

そんなザクラを前にして、星利がボソッと言う。

「ん?」

「・・・そんな美人が1人で外を歩いてみろ。へんな奴らに絡まれるぞ」

「・・・え・・・?」

星利の呟いた言葉にザクラは大きく目を見開く。

すると、星利はハッと我に返り、慌てて前を向いた。

「ほ、ほら! 行くぞ! 診察14時からなんだろ!?」

そう言って星利は勢いよく外へ出て行った。

「ちょ、ちょっと待って!」

ザクラも慌ててスニーカーを履き、星利の後を追った。


それから10分後。

ザクラと星利は、いかにも『町の診療所』という外観の建物にたどり着いた。

「こんにちはー」

ガラガラと引き戸を開けると、受付に座る初老の女性が微笑んだ。

「こんにちは、春風さん」

「よろしくお願いします」

「それでは、少しお待ち下さいね」

女性はそう言ってカルテを手にして、診察室の中へ消えていった。

そして、少しすると、診察室の扉が開いた。

「こんにちは、春風さん」

中から、医師というよりも術師という服装をした初老の男性が現れた。

「こんにちは、島江先生。よろしくお願いします」

ザクラがそう言って頭をぺこりと下げる。

それを見て、島江、と呼ばれた医師はニコッと笑った。

そして、ザクラの側にいる星利に気がついた。

「あれ、今日は風丘先生じゃないんだ?」

「あ、僕、風丘星香の弟で、風丘星利といいます」

星利はそう言って頭を下げる。

ザクラはそれを見て驚いた顔をした。

「あー、弟さんか。どうりで似てると思ったよ」

「そう・・・ですか?」

「うん。 目元とかよく似てるよ」

星利はそれを聞いて苦笑した。

「じゃ、立ち話もあれだし、診察はじめましょうか」

「はい」

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