第2話 水魚の如く
第19話
星利side
それから数日後のある朝。オレは突然姉貴に頼みごとをされた。
「おいおい、予定を空けていたんじゃねえのかよ」
「ごめん! どうしても断れなくて!」
「それに、オレが行ってもよく分からねぇと思うんだけど」
「大丈夫よ。本当にザクラちゃんの付き添いで行ってもらえればいいんだから」
今日の昼間、春風の診察の予定が入っていた。だが、姉貴は突然予定が入ってしまい、春風の付き添いをすることができないらしい。
「・・・どうせ、他の奴らもダメだったんだろ?」
姉貴の突然の頼み事にため息をつく。
「 鈴ちゃんは実家の神社の修復の手伝い。
北斗くんは、実家から呼び出しがかかったから行くって言っていたし。
私は、今手伝いに入っている病院からヘルプが来てそっちに行かなきゃ行けないし・・・」
ここ、緑葉国はオレらの故郷である。そのこともあり、町の救済の他にも実家へ呼ばれたり、他にもやることがあったりと、毎日が慌ただしかった。
比較的暇なオレと、危険な目に遭う可能がある春風以外は。
「・・・仕方ねえな、行くよ」
「ありがとう、星利!」
姉貴はそう言って拝むようにパンッと手を合わせた。
「びっくりしたじゃねえか!!」
オレはその音の大きさに驚く。
こいつと姉弟をやって長いこと経つが、豪快なところは少しも変わっていない。
少しぐらい変わってもいいと思うんだが。
「ごめん、ごめん」
そう謝りながら姉貴は、白衣のポケットから何かを取り出した。
「これ、その病院までの地図。
あ、でもザクラちゃん知っているからいいか」
「いや、一応もらっとくよ。あいつはあいつでボーッとしてそうだから」
「・・・そうね」
そう言った姉貴から地図を受け取る。
「・・・へえ、意外とちょっと距離があるんだな。 春風の家から近い、とは聞いていたけれど」
「歩いて10分くらい。まあ、近所といえば近所ね。
本当にいいところに病院があって良かったわ」
「そうだな」
「たぶん、診察自体はそんなにかからないと思うわ。 最終確認みたいなもんだから。ザクラちゃんが大丈夫そうだったら、どこか寄り道してもいいかもよ?」
姉貴はそう言ってにこり、と笑う。
「そうだな、天気もいいし。 あいつの気分転換にもなるかもしれないからな」
海救主だったザクラがウィーン・ウォンドを倒し世界を救ったことは、町中、いや、世界中に知られている。
あいつを、神だ女神だ、と崇める人々もいる。
ウィーン・ウォンドの下で働いていた者もまだいるはずだ。
どちらにしろほとぼりが冷めるまで、あいつが単独で、かつ不必要に外へ出るのは危険だった。
だが、あれからだいぶ時が経つ。そろそろ外に出てもいいと思う。
「じゃあ、よろしくね。 診察は14時からだから、遅れないようにね?」
「おう」
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