第16話
星利side
あの花畑でオレらがウィーン・ウォンドと決着をつけていた頃、町は大変なことになっていたらしい。地割れ、揺れにともなう建物や山の崩れ。負傷者も多い。一方で洪水や津波は起きておらず、これは「海救主」だった春風のおかげか、はたまた偶然か。
とにかく、起こしたのがウィーン・ウォンドだということ、オレらも少なからず噛んでいたことから、町の復興を手伝うことになった。
そしてその間、春風の実家に居候させてもらうことになっていた。
オレらは町の復興を手伝いつつも、あの花畑に放置していた船を片付けていた。
そして、そこであいつの荷物を見つけた。
なくては困る、というものではないだろうが、一応あいつのものだ。
春風邸に帰ったら渡すとしよう。
そう思い、春風邸に帰った後あいつを探した。
「ザクラ? あいつなら縁側にいるぞ」
同じ敷地内にある道場にもおらず、春風の親父さんに尋ねた。
「ありがとうございます」
親父さんにお礼を言い、縁側へ向かう。
「あ、いたいた」
親父さんの言う通り、 あいつは庭に面した縁側にいた。
「おい、春風。これ、お前のじゃーーー」
そう言いかけて思わず口をつぐんだ。
あいつは、海宝石の入っていたガラスの筒を見つめていた。その横顔は悲しそうに見えた。
『どうしようかね・・・。海救主の力を使い尽くして、もはや「海救主」じゃないしなぁ』
あいつの母親の墓参りをした後、あいつはそう言っていた。
あきらかにあの時よりも悲しみが増したように見える。
そんなあいつの顔を見て、胸が苦しくなった。
「・・・春風?」
苦しいけれど、あいつのそんな顔を見ていられなくて声をかけ直した。
「あ、星利。いたの?」
振り返った春風は、慌てた様子でパッと表情を変えた。
「ああ」
「ごめんね、気づかなかった。なんかあった?」
「・・・船の片付けをしていたんだけど、これ、お前のじゃない?」
オレはそう言って、あいつに1冊の本を手渡した。
「あ、そうそう。私のだよ」
「そうか」
「ごめんね、わざわざ。ありがとうね?」
春風はそう言ってにこっと笑う。
だが、その微笑みは無理矢理作っているようにしか見えなかった。
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