第5話 白味噌お雑煮と年上男子②

「鬼パワーには他にも超視力や超聴力、超回復力なんかもありますね。滅多なことでは致命傷になりませんし、病気にも強いので長寿です。あぁ、でもこの数珠で妖力を抑えているので、人間社会に馴染めるくらいにはなってますかね」


 錦はカウンターの向こうのキッチンから、手首に付いている数珠を見せてくれた。一見しただけではオシャレな木製数珠でしかないが、どうやらすごいアイテムらしい。


「妖力て、妖怪の力やんな? 数珠すご! どんな原理なん?」


「立花さんは、この世の奇々怪々の裏側が知りたいですか? 知らない方がいい事もありますよ」


「そう言われると、余計知りたなるんやけど」


「めんどくさいからヤですよ」


 脅すようにホラーな口調から一変し、本音だだ漏れでヘラっと笑う錦。

 立花も「錦君が嫌ならええけど」とあっさり引き下がり、話題は数珠から「あやかし」に変わった。


「イマドキはあやかしって呼ぶんですよ」と、錦はドヤ顔で言う。


「あやかしの中では妖狐や化け猫、ぬらりひょんなんかは有名だと思いますけど、鬼の強さは別格ですね。魔族の吸血鬼と対等に渡り合えますから」

「へ、へぇ! 鬼かっこええな!」


(魔族って、外国版あやかし? 錦君、知らん単語ぶっ込まん時といくれ……!)


 分からないことだらけだ。だがきっと、錦が朗らかな青年だからだろう。立花は彼が詳細不明のあやかしであっても怖くはなかったし、逃げ出したいとも思わなかった。寧ろ、錦との不思議な縁が簡単に切れないことを願いながら、ちびちびと熱燗をすする。


「はぁ~……、沁みる……。疲れ吹き飛ぶわ……」

「純米酒土鬼っていうお酒です。お米のいい風味が出てるでしょ?」

「うん、めっちゃ……えっ⁉」


 立花は錦の方を見て、思わず驚きの声を上げてしまった。

 錦の熱視線の温度が高すぎて、とてもではないが次の一口が進まないのだ。なんというか飲酒中の立花以上にほんわかと温かく、全身で癒しを享受しているような表情をしていて、尚且つこちらへの眼差しは愛おしさと尊さが突き抜けているような熱さがある。


(た、多分、禁酒ストレス発散タイム……やんな?)


 つい気恥ずかしくなってしまった立花は、錦に「あんま見られると呑みづらいんやけど……」と困りを向けるが。


「あぁ、お気になさらず……。妖力が回復したら調理に戻りますんで。あ、顔伏せないでくれます? 快感に満ちた表情がいいんですから」


 真面目なのか、煽ってきているのか。


「言い回しアウト……!」


(う~~~っ! 俺は年上のお兄さんが好きやのにぃ……。はよ、妖力回復せい!)


 なんだか辱められた気分になった立花は、真っ赤になって――しかし、錦の注文通り顔は伏せず、根性で晩酌を続けたのだった。

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