第8話

「きっと、いつもの訪問販売か何かだと思う。ここマンションだから、昼間によく来るんだよね。話は戻るけど、ケーキ教室でもはじめてみようかなって。家賃も馬鹿にならないし、おばあちゃんの手術代も稼がないといけないし」


 銀行からの融資やクラウドファンディングを考えていることまでは、やはり言えない。


「教室って、そんなにうまくいく?」


 舞花が不安げに言った。


「なんとかなると……」


 そこで、コンコンと、壁を鳴らす音がした。


「なんとかなるわけない。甘すぎだろ」


 声がするほうを見ると、知らない男性が部屋の中に立っている。晶は、息が止まりそうなほど驚いた。


「ふ、不法侵入! 舞花、いったん切るね!」


 慌てて電話を切ったあと、「110番って何番だっけ」と、意味不明なことを口走ってしまう。


「不法侵入? 鍵は開いてたが」

「だからって、勝手に入ってこないでくださいね」


 晶は相手を刺激しないよう、落ち着いたトーンで言った。逆上されては困る。


「ここ店だろ。それにしては、呼び出しても誰も出てこない、電話も一向に繋がらない。とにかく急いでいるんだ。早くしてくれ」


 三つ揃えのスーツを着た、二十代と思しき男性は、いやに偉そうな態度だった。最近オンデマンド配信で一気見した、恋愛ドラマの俳優にどことなく似ている。

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