第6話

 そもそも、どんなに辛くとも、仕事は辞められない。

 結婚しようと、子供を産もうと、女だって一生働かねばならない時代だ。


 そんなとき、結婚し子育て中の友人が作ったフラワーケーキに出会ってしまった。自宅のキッチンで、現場から離れた主婦が、店に並ぶケーキと見紛うような美しいケーキを作っている。晶にとって、衝撃的な出来事だった。


 ショーケースに並ぶことのない、世界にたったひとつのケーキが眩しい。

 晶は、自分がなりたかったものは、ケーキデザイナーだったと、思い出す。


舞花まいかがフラワーケーキの素晴らしさを教えてくれたから、今の私がいるんだよ」


 オリジナルケーキをデザインしたい。

 どこにもないたったひとつのケーキを作りたい。

 一度きりの人生を、夢に向かって生きてみたい。


 二十七歳にして独立開業の道を選んだのは、再び情熱に火がついたからだ。また、恋人もおらず社畜気味で、生活費以外の出費がほとんどなかったため、それなりに貯蓄があったというのもある。


「てかさ、売れなかったら意味ないじゃん」


 スマホの向こうで、友人の篠原舞花しのはらまいかは呆れたように言った。


「ま、まあね」


 開業して二ヶ月になるが、知り合いが義理でちらほら注文してくれただけで、新規のお客様からの注文はまったくなかった。

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