第3話

 何事もありませんように。

 いない神に祈りながら、晶はチャペルを出た。


 背後で扉がしまったのを確認すると、慧がぐるぐると肩を回しはじめる。


「はあ、疲れた。あとは、ガーデンパーティーか」


 海外ウェディングを思わせる、緑豊かな美しい庭は式場の売りではあるけれど、楽しめる余裕はなさそうだ。早朝からの準備で頭はぼんやりしているし、ドレスを着るため、朝食を控えめにしたせいですでにお腹が鳴っている。


「結婚式って、ほぼアーティスティックスイミングですね」


 水中での激しい動きを微塵も感じさせない、水上での笑顔。まさに、花嫁の姿だ。


 これまで、仕事でウェディングケーキを何台も作ってきた晶だが、花嫁の裏の苦労までは知る由もなかった。


 しかし、晶の言葉は慧にはまったく響いてないようで。

 慧は腕時計から顔をあげると、急かすように言った。


「とにかく、俺たちの仕事を成功させるためだ。行くぞ」

「頑張りましょう」


 二人は腕を交差しぶつけあって、共に戦う意志を確認しあうのだった。

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