第12話

カラスのギャアギャア鳴く声も、標が助けを求める声も消え、社のある山は静かになった。守り神の怒りで風が起きた現象も徐々に収まり、今はそよ風が吹いている。

「…標はこのあとどうなるのですか」

「おそらく、この山のカラスたちに喰われるだろう。この山のカラスたちもあやつのせいで荒れた里で食べ物に飢えていた」

「里を荒らしたものは里の物に還れ、ですか」

「うむ」

 そうか、と思いながらもあまり良い気分がしない。

 柊家を継ぐ証である火紋をもつ俺が産まれた時から、標への対応が変わった柊家の当主である父。冷たく対応しているように見えていても、やはり心の底では標のことを気にかけていたのだろう。じゃなければ、若い俺でも登ることが大変だったこの山道を、それも毎日登って来れなかったはずだ。

「…標のやつが荒れていたのは、俺が産まれたことで対応が変わった父に対する行動だったみたいなんです」

「そのようだな」

 それもずっと見ていた、と守り神が返す。

「…標が、自分への父の気持ちにもっと早く気づけばなにか変わったのでしょうか。そうすれば、里も荒れず里の者も救われたし、標もこんなことにならずに済んだ」

 夕方の涼しくなった風が吹き抜けていく。

その風がやたらと身体に沁みた。

「あやつがこういう運命になったのも、現当主があやつへの対応をとったのも定だ。人が途中で何かに気づき変わるのも定められたこと。あやつにはその機会が元からなかったのだ」

「そうですか…」

 運命とかさだめとか言われても、あまり腑に落ちない。

「…次男坊。いや、柊 北斗」

 もやもやとする俺を厳かな声で守り神が呼んだ。

「改めて、お前を柊家当主後継者と認める。現当主の後を継いだのち、この里を復興させてみせよ」

「…はい」

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