第11話
「えっ」
つづみが柊の里の土地神の娘…?
「この土地神とわらわは友でな。土地神は子ができた時、たいそう喜んでいたわ。だが、ある日海救主と世界を荒らす者の対決により、自分に危害が及ぶことを土地神は知った。そして、まだ幼い子に影響が及ばぬように、といずれ「来たる時」まで人の子として育てることにした。わらわに相談した結果、この山の麓でこの娘は、偶然にも柊家に仕える者に拾われ育てられた」
「…そうだったんですね」
「お前たちが激戦の末、世界を陥れかけた者はこの世界から消えた。だが、戦いの影響はこの柊の里にも与えた。予測通り、土地神にも危害がわたりついには消えてしまった。土地神がいない状態はよくないため、次男坊が帰ってくるまでわらわが代理を努めていた。だが」
そこで、再び守り神は標を見る。
「わらわがなんとかしてもなかなか前のようにはならなかった。こやつが荒らすからだ」
つづみは赤ん坊の頃、この山の麓に捨てられていて、柊家に仕える女中が偶然見つけて拾い養女にした。そんな話は聞いていたけど、まさかそういうことだとは。
つづみは昔から勘が鋭く、なにかを見透かすような力があった。今つづみが土地神の子だと聞けば納得がいく気がした。
「土地神になるこの娘と里は繋がっておる。そして、土地神が話していた「来たる時」が近いのかもしれぬ。その証として土地の荒れが娘の体調悪化に現れてしまっておる」
つづみが土地神の子だと知らされて、標は震えている。
「おい貴様、そんな大事な娘を昔から散々いじめよって・・・」
ゴゴゴ、と守り神の怒りで山に吹く風がより強くなる。
幼少期から俺とつづみは主従関係ではあったが共に育った。俺が気に食わない標は、俺に仕えるつづみにまで被害を与え、いじめや嫌がらせをしてきた。
「わらわに刀を向けたのも大罪であるが、この娘をいじめたのも大罪である。土地神の娘だぞ。それに、貴様が暴れたせいで里の者も苦しんだ」
標は自身の力を見せつけるために、俺が里に帰ってくるまで里を荒らしていた。柊家当主になるのは俺だ、と言っていたが、里を荒らし里の民を苦しめるのは当主とは言えない。
「貴様は大罪を重ねた。その大罪は貴様の命で償え」
「そ、そんな…」
標が震えて顔をあげ、守り神に許を乞う。
だが、守り神は変わらない。
「な、なぁ、北斗。助けてくれよ」
ふっ、と俺と目が合い、標は俺に助けを求める。だが俺はそれを無視する。
「お前に、散々嫌がらせをしたことは謝る!つづみにしたことも謝る!お前が柊家の当主になることも認める!だから殺さないでくれ!今すぐここから出て行くから!」
俺はそれを聞いてため息をついた。
今すぐここから出て行くから、と言って本当に出て行ったとしても、こいつは必ず再び俺の前に現れる。そして、再び俺やつづみに危害を与えるのだろう。
「いやだ!父上!誰かー」
「お前は知らぬだろうが、その「父上」はお前が早く心を入れ替える日が来るのをずっと願っていたのじゃぞ。病で倒れるまでわらわのところまで毎日祈りに来ていた」
「え…」
「だがお前はその父の願いを裏切り、父の守ってきた柊の里を荒らした。もう、救いようがない」
「そんな…」
「…里に危害を与えた者は、里のものの体に還れ」
そう言って守り神は空にバッと手を挙げた。すると、たくさんのカラスがどこからかやってきた。
「ひっ」
たくさんのカラスは標を取り囲み捕まえると、標の身体を浮かばせた。
「わあああーーー!!!!助けてくれ!!」
徐々に空へ上がっていく標はジタバタと暴れる。標をガシッと捕まえて離さないカラスたちはどこかへ移動し始めた。
「やめろーーー!!」
その叫び声も遠くなり、やがて標を取り囲んだカラスの集団はどこかへ飛んでいった。
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