第6話
夕飯と入浴を済ませあとは寝るだけとなった。
「…かしこまりました」
屋敷の渡り廊下で明日の出立の時間を女中に伝えると、女中は頭を下げた。
「ところで、俺がここに来てからつづみを見ていないのだけれど?」
俺を探して当主のことを話した後、つづみは俺の帰宅を当主に伝えるために、俺より早く柊の里に戻ってきたはずだ。
「はい…」
女中は顔を曇らせる。
「どうした?つづみになにかあったのか?」
「…実は、つづみは里に戻ってから体調が悪くずっと床についております」
「そうだったのか…」
女中は悩みながらも口を開いた。
「実は体調を崩し床についているのは今回だけではないのです。北斗さまが旅立ち、兄君さまが里を荒らすようになった頃からつづみはこんな状態なのです」
女中の言葉に、えっ、と声が出た。
「…そんな前から!? 医者には行ったのか?」
「はい、行かせました。ですが、『疲労だろう』と。私もそう思っておりますが、なんだか腑に落ちません」
「…分かった。明日帰ってきてからもう一度医者に行かせよう。つづみをゆっくり養生させてやってくれ」
「はい」
『…はい、つづみです』
『北斗様がご無事でよかったです』
『私は柊の御屋敷のおつかいで、北斗様を探しておりました。---北斗様。旅と偉業の後ではございますが、一刻も早く柊の御屋敷にお戻りくださいませ』
自室に戻りながら脳内で、ザクラちゃんたちの近くにいた時に再会したつづみの姿が再生される。あの時は体調が悪そうには見えなかった。体調が運良く良好だった時なのだろうか。つづみが心配だ。
「…つづみっていう女のことが心配か?」
ずっと姿を隠していたレオがそう言いながら姿を現した。
「ああ。つづみは屋敷に仕える女中だけど俺の幼なじみでもあるからな…」
「そうなのか?」
「ああ」
俺はそう言って、自室から中庭を眺める。「昔は、あの中庭でよく遊んだんだよ」
まだ家のことも自分がザクラちゃんたちに出会うことも知らない幼い頃の自分がいる気がした。
「本当は見舞いに行きたいが、あっちも気を使うだろうし帰ってきてから見舞いに行くとするよ」
「そうだな」
ふと時計を見ると、もう眠りにつかないとまずい時を示していた。
「あ、もうこんな時間か」
「寝るか?北斗」
レオはそう言って大欠伸をする。
「ああ。今日はいろんなことがあったから疲れた」
レオにつられて俺も欠伸が出た。
「ザクラちゃんたちのいる町から朝一の汽車に乗って。標と対峙して。久しぶりに帰宅して家族に気を使ったからな」
ーーーそうか。海救主たちのいる町を離れたのは今日の話なんだよな。町を離れてからまだ数日経っていない。
『気をつけてね』
旅立つ前にザクラちゃんが病床から声をかけてくれた。海救主の力を失くしても、病床に伏せていても、変わらずザクラちゃんは美しかった。星利たちも俺の旅立ちに背中を押してくれた。仲間たちのことを思い出すと、すぐにでもザクラちゃんたちのいる町に帰りたくなる。
「…北斗?」
レオの言葉で現実に引き戻された。
「ああ、ごめん」
「明日は裏山に行くんだろ。気を引き締めて行けよ?」
レオがそう言って心配そうに見る。
「うん、大丈夫だよ。ちょっとホームシックになっただけ」
「…ホームシック…?」
首を傾げたもののすぐ理解したみたいで、レオはスッと布団の横に丸くなった。
「…寝るぞ?」
「うん」
俺はその布団の中に入り部屋の電気を消した。
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