第4話

「なるほどな…」

俺の身の上話を聞いてくれたレオがため息をつく。

「お前までため息をつかなくていいよ。幸せが逃げてしまう」

俺はそう言って苦笑いを浮かべていたらしい。レオが心配した表情をした。

「…なんだ?」

「いや?『ため息をつくことで幸せが逃げる』と言うのなら、そのままお前にその言葉返すわ、って思った」

「え?」

レオがなにを言っているのかよく分からない。

そう思ってレオの方を振り向いた時だった。

かなり近くから人の叫び声が耳に届いた。

「え!?」

俺とレオはバッと周りを見渡す。すると、ここから半数メ-トル先で1人の女性がうずくまっていた。その女性の近くでは、刀を振り回す兄がいた。よく見るとうずくまる女性の胸には泣きじゃくる小さな男の子がいる。

「標様!お止め下さい!!」

「うるせえ! そのガキが俺に向かって暴言を吐いたんだ!俺を誰だと思っている!」

「この子はまだ幼いのです!お許しください!」

「うるせえ! 俺はこの里を治める柊家の次期当主だ!ガキだろうと許さん!」

標-兄はそう言って刀を女性に振り下ろした。

---まずい!!

俺は足を走らせ、走りながら火創主に姿を変える。

---間に合え!

そして女性と標の間に入り、火創主の剣で標の刀を振り払った。

「はっ!?」

俺の剣で払われた標の刀は呆気なく近くに落ちた。

「…貴様…北斗か…!?」

いきなり現われた俺に標は驚きの表情を浮かべる。

「…標」

「…ほ、北斗さま…?」

震えながら俺の背中にいる女性も驚いていた。

「大丈夫か? 早く逃げて」

標に顔を向けたまま女性にそう告げると女性は慌てて男の子を抱えて走り出した。

「あのガキ!!」

標はその女性を追いかけようとする。俺はその標の喉元に剣先を向ける。

「…くっ!」

「あんな小さい男の子の言葉に腹を立てるだなんて、相変わらずだな?」

「なんだと?!」

標は俺に食ってかかろうとする。だが、それに対して俺は剣先を向ける強さを強める。

「くっ…」

俺はずいっと一歩標に近づく。これ以上進めば標の喉に剣が刺さる。

「…柊家の当主の座と、その火創主の力は俺のものだ。絶対奪い返す!!」

標は悔しそうに歯ぎしりをすると、くるりと背を向けどこかへ走り去っていった。

いなくなったのを確認すると俺は火創主の姿を解除した。

「は~…」

俺はため息をつく。

「北斗様だ!北斗様がお帰りになったぞ!!」

どこに隠れていたのか、わらわらと里の者たちが俺の元に集まってきた。

「良かった!これでようやく平穏に暮らせる!」

そう言って泣きじゃくる者もいる。

「北斗様、よくぞお戻りで!!」

「…うん」

『…柊家の当主の座と、その火創主の力は俺のものだ。絶対奪い返す!!』

先程聞いた、標の捨て台詞を思い出す。

どんな言葉を吐いたかは知らないが小さな男の子が言った言葉だけに腹を立て、それだけで刀を振り回す。次期当主だから、と脅し、悪行を働き民たちを苦しめて涙を流させる。

痣が無かろうがあろうが長男だろうが、関係ない。あんな奴にはこの里を治める資格なんてはじめから存在しない。

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