柊の里
第3話
「なんだよ、これ」
柊の里の入口に来た俺らは、その現状に目を疑った。
この時期豊作である作物は青々としているものの、よく見ると作物の病にかかっている。普段賑わっている里の中心部にも誰ひとりおらず、立ち並ぶ商店も固く扉を閉じていた。
旅に出る前の穏やかで慎ましくも存在していた故郷の景色の変わり様に俺はため息をついた。
それが自分の兄も絡んでいるだろうと思うと、そのため息も重さを増す。
「…お前の兄貴か」
人がいないことがわかると、レオが姿を現した。
「ああ」
「…お前の家もなかなか大変そうだな」
「…まあな」
俺には兄と姉、そして妹と弟が1人ずついる。『子宝に恵まれた家』『子だくさん』と良いイメージのように言われるが、実際はそうでもない。名家であればあるほどそれが問題となってくる。「跡継ぎ問題」という厄介な問題が。
我が家には『柊家の当主かつ火創主になるべき子はとある痣をもって産まれてくる』という言い伝えがある。
先に生まれた兄とその双子の姉にはその痣は存在しなかった。時代は長子が家系を継ぐ流れでもあった。両親は「もしこの先、痣の子が生まれなかったら」と思い兄を育てたらしい。
だが、しばらく経って第3子として俺が誕生した。跡継ぎを示す大きな痣を背中に抱いて。
ようやく産まれた、跡継ぎの子。俺の誕生に一族は喜び、兄に注いでいた愛を俺に与えるようになっていった。
跡継ぎ候補は兄から俺へ。跡継ぎだけではなく愛情も俺へ。俺の誕生により兄は俺に冷たく当たってくるようになった。
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