第86話

「冗談キツイってば!」




慌ててアヤトの体を思いっきり力を込めて押し返す。



拘束されていた体は思ったよりもあっさりと解放された。




さすがチャラ男だよっ。



幼なじみ相手にまで、こんなことが簡単に出来るんだから。




もしかしたらナオが言ってたのってこういうこと?



軽いノリで遊ばれて飽きたらポイされちゃうぞ!みたいな……。





「冗談じゃないって。俺、カンちゃんのこと好きだし」



「嘘ばっかし!私、帰るから」





腹立たしい気持ちでいっぱいになりながら、スタッフルームのドアを開けて外に出る。




もうやだ。冗談ってわかってても無駄に顔が熱い。





「……ははっ。おもろ」




アヤトの声が甘い焼き菓子の香りに混ざって消えた──。

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