第45話

もう、放せない。



 俺は地獄へ、女を引きずり込んだ。


 建物の中で行われる愚行を、これが現実だと容赦なく見せつける。


 女は壮絶な世界に、嘔吐して意識を失った。



 つまらないヤツ。



 舌打ちと共に、また気持ちが下降する。所詮だたの女子供というわけか。


 真っ白い顔で倒れるゲロまみれの女。



 誰かが遊ぶなら勝手にしろと、半ばどうでもいい気持ちで放っておいた。


 周囲の人間は無関心だ。クスリで飛んでるか、死んでるとでも勘違いしているのだろう。


 もともと部下達に任せた“現場”だったから、今日の俺は気楽なもんだ。当初の目的だった天馬のこだわる女も、一応押さえた。


 近場の椅子に座って吸い損ねていた煙草を味わいながら、女を観察する。


 見た目は、悪くない。商品にも出来るだろう。


 まだ天馬がヤッてないなら、こいつはまだ処女に違いない。それもまた商品価値を高めるか。


 

 目が覚めるのを待って、自分でゲロを拭かせた。


 

 そしてまた、こいつは俺の期待を裏切る。それは違うな。期待に応える、だ。


 この地獄の中で目を覚まし、そこがまだ絶望の世界だと気がついた女に、俺は選択肢を与えた。


「客になるか、商品になるか、自分できめろ」 


 周囲を再認識する。俺という人間を判断する。自分を見極める。結論を出す。


 それを一瞬で、確実にやってのけた女。


 その目。


 機械的な冷たさと、人間の能力の深さを混ぜ合わせた、ダイヤのような輝き。


 自覚なしの存在感を振りまきながら、女ははっきりとこう言った。


「わたしは“客”じゃない!」


 自ら、商品になることを選んだ。

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