第44話

だが、そいつは色々と計算外に俺を楽しませてくれた。



 さっさと柵から飛び降りろと顎を上げると、素人の癖に俺にムッとしている。


 これだけ俺に威圧されて、黙って立っていられるだけでも希有なのに、それどころか腹を立てるとは。


 大物か、バカか。



 子供はちらりと俺の横を意識して、飛び降りた。着地点は、そこか。


 落下地点を予測して、その体を攫う。


 軽い体。肩に担ぐと、煩く騒いだ。


 適当にあやしながらその場を離れ、関わるな詮索するなと警告してやった。


 納得していない子供。混血だろうか。薄茶の女。その程度の印象の人間に、ここまで寛大になれる自分に驚いた。


 口止めより消す方が確実で楽なのに、俺は温情の忠告を与えている。


 ま、ただのチビだからな。


 それなのに、こいつは俺の好意をあっさりと無駄にする。或いは…好意を倍にして返してきた、か。



「店に来る前の日に何かしたのもあなた達なの…?」


 天馬がしくじったかと思った。あいつが、店を査定していることを気付かれたかと。だがこの子供が口にしたのは「前の日」。昨日は、プロ中のプロが入った。絶対に侵入の跡を残さない、徹底した方法で。


 それを。


「お前…感じたのか。一切痕跡を残さなかった、あの空間で」


 子供の顔が、変化した。


 恐怖だけにではない。警戒するどころか、こちらを探り隙を探そうとしている眼。それは、実際に見えるもの以上のことを感知している。


 空気すら変える。女の、気配。


 もはや、“子供”ではなくなった。


「マインドサイトか」


 ゾクリと、心が沸き立った。

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