第43話
その日の客は、華僑がメイン。
昼は勝手に観光や仕事をして、日が落ちてから“現場”に現れる。まるで蛾だ。
貸し切った広い建物は、この世の地獄。薄暗い空間で目にする光景は異様で、レイプなんて序の口だった。
日頃は温厚な父親で会社のトップに立つような男が、ここでは涎を垂らして女の髪をむしる。引き抜く感覚や、毛根についた皮膚に興奮して、股間を膨らませるなんて家族が知ったら自殺もんだ。
スクリーンで見たことのある熟女は、血眼で幼児の足の爪を舐める。おいおい、興奮しすぎて噛みちぎるなよと呆れながらその脇を通り、俺は裏口から表に出た。外に立つ見張りが軽く頭を下げるが、俺は無視したまま歩き出した。
排気ガスも届かない裏通りの、澄んだ空気。見張りの吸っていた煙草の煙に、俺もまたそいつをくゆらせたくなって、落ち着ける場所を探す。
完全に気を抜くことなどないが、まあ、人気がない方が楽ではある。
そうやって建物の裏に回り、周囲をチェックしようとしたその視界に。
ゴミ箱を囲うように設置された鉄柵の上に立って、“現場”を覗こうとする女。…いや。子供か。
「覗いてどうする」
必要なら、こいつを消す。そう思いながら声を掛けた。
ビクリと体を反応させて、こちらに振り向く子供。だが、体を向けるその間にも、そいつが状況を察知し、気持ちを研ぎ澄ませるのがわかった。
瞬間、俺は部下が隠していた存在が、こいつだと直感した。
俺を見下ろす、そいつの瞳。
俺が本気で殺気を込めて射すくめているのに、目を逸らしやしない。
それどころか冷静に、“俺”という人間を探っているのがわかる。
害のある人間。自分の味方じゃない。さっさと逃げるべき。
難を言えば、そいつは頭はキレるかもしれないが、考えていることが見え見えなのが素人すぎる。
おもちゃにするには、レベルが低いと少し興ざめした。
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