第38話

運転手がライブハウスまで送る、俺にとっては前代未聞のデート。しかも、金は社長持ち。


 どこまでもTに過保護な小澤社長。

 どこまでもTを独占したい小澤社長。


 俺は複雑な心境を、『ラッキーじゃん』という一言で誤魔化してTとライブハウスに立っていた。


 無理矢理ゲットした、100名限定ライブ。レアなステージ。


 Tは後ろの壁に寄りかかって、カイの歌を聴いている。


 綺麗な横顔。やっぱり鼻、高いよな。


 チラチラTを見ていたら、Tに気づかれた。


「なぁに、天馬。企みごと?」


 顎を引いて、睨んでくる。失敗だよ、T。だって目が笑ってるし。


「たっちゃんがカイにピアスもらって、だらしなくニヤケてたの思い出してたの」


「何、それ。私ニヤケてた?」


「うん。スケベ笑い」


「酷いなぁ」


 苦笑いするTはとても機嫌がいい。それは、カイに会えたから?



 チリッと心臓が痛んだ。



 かと思ったのに…Tはあっさりと、花束も渡さずにライブハウスから離れる。


「え?たっちゃん、声掛けないでいっちゃうの?」


 再会の場を設定していた俺は、焦る。


 駄目だろ、T。カイと、話せよ。


 相手はTの姿を見つけて、歌うの忘れちまうくらい驚いてたろ?Tは、カイにとっても、また“特別”な筈だから。再会して、懐かしくなって、前より綺麗になった自分を見せて、二人で恋に落ちろよ。


 

 考えながら、ズンと気持ちが落ち込んでいく。



 何してんだ、俺。

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