第39話

好きなオンナに、男を作らせようと躍起になって。


 本当は、俺がTの隣に立っていたいのに。


 笑うのも、馬鹿やるのも、手をつなぐのも、キスするのも。


 全部全部、俺が、やりたいことなのに。




 何がしたいんだよ、俺。


 どうすりゃいいんだよ。



 Tには、普通の世界で生きててほしい。俺じゃなくて、小澤社長じゃなくて、ちゃんと“普通”を歩いてく男じゃなきゃ駄目なんだ。



 鉛みたいに、重くなってく気持ち。



 Tはそれを、知ってか知らずか。


 ひまわりみたいに笑った。っていうか、俺によく見せる苦笑だったけど。


「いいのよ」


 カイのいる建物から、ぐんぐん離れる。ためらいもなく。


「今日は天馬とデートがメインなんだから」


 随分あっさりと口にする。


 やべ。心臓、撃ち抜かれたよ、俺。



 その後は二人で色気なく酒を飲んで、

酔っぱらったTと道端でおしゃべりした。


 Tは言うんだ。


 小澤社長や八嶋やカイは、日の当たる人間だと。


 自分と俺は、違う道を進むだろうと。


 彼女にゾクリと鳥肌を立てるのはこれが二回目。


 多分事実は何も知らない筈の彼女は、でも本質を見抜いている。



 で、日向にはいない俺を、しっかり受け入れてくれてた――。




 ああ。もう充分だよ、T。



 それだけで、充分。

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