第32話

携帯が鳴った。




 握りしめ続けていた手の平はは白くなって、どうにも震えていて、ガタガタ細かく震えていた。


 その手を強引に広げ、目の前の床に置いてあったソレを耳にあてる。




『終了だ。引き上げる。お前は二週間後だ』


「…りょーかい」



 それだけ言うのがやっとだった。


 パーティーは終わった。客は日常へ戻り、何事もなかったようにホールは綺麗に片づけられているだろう。


 俺はあと少しここに残って、誰かに異変がないかチェックする。何かバレてれば、それを対処する。


 

 


 やがて 夜が明ける。


 魔物たちは散っていった。



 俺は部屋を飛び出し、バイクに跨がって、ホールに急いだ。




 何事もなければいい。



 ホールで見つからなくて、二階に住むグランマとTの部屋に酔っぱらって乱入して、驚いたTがベットから飛び起きて激怒してくれるといい。それからグランマに迷惑かけないの、と叱って呆れてくれればいい。




 

 傷つくのも忘れて、横倒しにしたバイク。走りながらメットを投げ捨てて、裏の扉から店に入った。鍵は…開いていた。





 厨房と呼ぶには狭すぎる調理スペースと、カウンターの向こうに見える倒れるTの姿。



 死んでたら、ここにはいない。



 失踪という形で、処分されてる。



 なら、Tは――


       生きてる。



 生きて いる。





 俺は初めて、神に感謝した。

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