第30話

それでも俺は、ホールに時々出入りしながら、別の店を物色していた。


 俺に残った、最後のあがき。それだけが、俺の良心。



 店の構造。音漏れ。隣近所や道路の状況。出入りする客の層。従業員。etc.


 どれもしっくりこない。


 やっぱりTの店が一番いい。



 だけど――。


「もう少し他あたるか」


 まだ、決意は遠かった。



 今日はフラリとホールでバイトでもしようと用意していたら、玄関に放りっぱなしのシャツから携帯の呼び出し音が聞こえてきた。


「ヤな予感」


 躊躇いながらも、それを拾い上げて耳にあてる。


「はいはい天馬ちゃんよ~」


『場所は絞れたか?』


「う~ん、一カ所、なんとか」


 俺は正直に口にする。嘘の通用する相手じゃなかった。


『じゃあ予定通りに組むぞ』


「っとさ」


 つい、言い澱んでしまった。


『何だ』


「…従業員に、勘がいい奴が。今は無害なんですがね。今後を用心するなら、別の場所探そうかと」


 半分本音。半分願望。嘘はない筈だから、相手に伝わらなければいい、と願った。


『一人くらい何とでもなる。決定だな』


 俺は、失敗した。


「じゃ、当日はその従業員、俺がカバーしてますよ」



『いや。いい。俺が出る』




 俺は、徹底的に、失敗――した。

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