第28話
閉店後のガランと寂しいホールで、Tが八嶋にグループ名の名前、セヴンセヴンの由来になったカクテルを作ると耳にして、無理矢理便乗した。
タダ酒。八嶋とTのお邪魔虫。単純にTと交流する。他にも、いくつか。
邪心いっぱいの俺は、やけ酒というのも手伝って、ハイピッチでグラスを空けた。好きな子が作ってくれる酒は、甘くてシュワシュワ音をたてる。
Tはバービー人形みたいにスタイルがいいくせに、MTVに出てくるアーティストみたいに可愛い顔してるくせに、阿呆みたいに大口を開けて大笑いしている。ただの酔っぱらい。まぁ、俺も一緒だけど。
もう、駄目じゃん。
気が利いて、一生懸命で、まっすぐで、怖いくらい怜悧で、ばぁちゃん大好きで、明るくて、どこか孤独で、見た目は悪くないのに無頓着で。
惚れないなんて、絶対無理じゃん。
俺は、だって、Tを地獄に近付ける。
だからさ。
俺は飲むだけ飲んで、騒ぐだけ騒いで、それから机に突っ伏した。
降りてこい、俺の睡魔。
瞼を閉じて、両腕に顔を突っ込んで、ただひたすら眠りを待つ。
早く寝ろ。俺。じゃないと、八嶋とTを二人に出来ない。
俺が帰るなんて言えば、きっとそのまま解散、だ。だけど俺がここで寝てしまえば、例えわずかでも二人の時間が出来る。だから、寝てくれ。俺。
だけど、寝たふりはイヤなんだ。甘い八嶋の声なんて、聴きたくないから。困ったように心を揺らす、Tの声なんて、聴きたくないから。
背が高くて、すっげえかっこいい八嶋も、Tと同じように自分の容姿には興味がなくて、頭の中はオベンキョウでいっぱい。漢方薬だとか薬剤のことで詰まってる。こういう男は堅物で、きっとTを大切にしてくれる。穏やかで長生きできる人生を与えてくれる。
だから、はやく眠ってくれよ。俺。
――頼むから。頼むから…。
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