第25話
Tは、タツキのT。時々はベビィTとか呼ばれている。ベビィは処女ってこと。これを教えてくれたブランドンは、店の常連だ。
カオリはクラブにくる軍人の中から、極上の男を探し出しては「頂いて」いる。川底の砂から砂金を探す楽しみがあるらしい、とTは笑った。こういう種類の女は、ここでは珍しくない。
俺は、客ではなく、何故かヘルプの地位を得た。バイト代は日払い。タダ酒飲みながらだから、いい仕事だ。それに時々、女の子も持ち帰れる。初日のように。
Tは不思議な女の子。
ポケットに入った小さなナイフやマリファナなんかは絶対に許せないのに、店の裏口であんあん煩く騒ぎながらSEXする男女はてんで気にしない。
ヤじゃないの?
馬鹿みたいに腰を振る白人を指さしながら、ポリバケツの蓋を持つ俺に、Tはきょとんとした。
「何で?私が見られてる訳じゃないでしょ。ここの連中には、ただのコミュニケーションだしね。させとけばいいよ。レイプなら、許さないけど」
人様のSEXよりは、ポリバケツに入りきらないゴミ袋の方が気になるらしく、両手でぐいぐい押し込んでいた。
あまりにも強く押すもんだから、結び目から空気と、小袋に入れていた生ゴミの汁がジュッと飛び出す。
「ああっ!やっちゃった!」
初めて聞いた、Tの焦った声。それもその筈。両手と顔は、べっとりと汚れてしまっていた。
「うわぁ、T、無惨!」
バケツの蓋を閉めながら、俺はTの為に拭くものを、と焦る。
「いいよいいよ、天馬。こんなの、洗えば済むんだから」
Tは、まったく無頓着に笑っていた。
店の、裏通り。壁際では獣みたいにヤりまくる男女。反対の隅でチョロチョロ動き回るゴキブリ。臭い汁で、肌を汚した女の子。
だけど。
なんでそんなに、懸命に働ける?なんでそんなに――綺麗に笑ってられる?
星も届かないようなその街で、Tは全く、汚れてなんかなかった。何にも、染まることはないのだった。
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