第24話

華奢な、女の子。ここにいる男どもには不似合いな小動物みたいな可愛さ。小さい顔に、大きい目。形のいい唇。典型的な美少女だ。だけど色気は、ゼロ。


 服装はジーンズに、黒いシャツ。袖を肘までまくり上げて、シャツは第二ボタンまで開けただけ。特別上手く着崩すこともなく、洒落たアクセサリーを身につける訳でもなく。髪も後で括っただけ。化粧もなし。


 なのに、何で、こんなに目立つんだ?


 俺はじっと、喧嘩の仲裁をする彼女を見つめる。


 黒人の女に手を差し伸べ、乱れた髪を直してやる。唇から血を流す日本人の方は、仕方なさそうに肩を叩いてやる。


 真珠みたいな白い肌。色素の薄い瞳と髪。だけど病的じゃないのは、彼女が放つオーラが生き生きと輝いているから。コロコロとよく変化する表情のどれもが、一片の偽りもなく、今を楽しんでいるから。


 見ているこっちまで、何だかウキウキしてくる。カノジョ、何者だよ一体。



 それは予感。


 この子は普通じゃ、ない。


 その子は、日本人の女の腕を引いて、見物人たちを右手で「しっしっ」と追いやりながら、俺たちのいるカウンターへ近づいてきた。


「今日も大忙しね、T」


 カオリに“ティー”と呼ばれた少女は、鼻の頭に皺を寄せ、「それっていいことよね」と苦笑した。それから挨拶もそこそこに、バーテンダーに、


「ララにとびっきり甘いお酒を作ってあげて。Tのおごり」


 フロアに向かって一際大きな英語で、


『ジェイク!ララとボブが溶けちゃうようなラブミュージックセレクトしてよ!』


 DJに手を振り、


「…あなた、新顔。ま、いいや。この人は今日のアンラッキーガール、観光二日目のリナさん。今夜はあなたが相手してあげて」


 何故か俺に、リナの切れた唇を拭うためのおしぼりと、腫れた頬を冷やす為のアイスパックとを渡すのだった。


 それから、


「あ、これ。トイレに落ちてたリナさんのパンツ。ボブの精液は洗っといたからキレイキレイ」


 右手にアイスパック、左手におしぼり、バドの瓶の横にはピンクの下着。


 無言で固まる俺に、カオリは再び乾杯の仕草を見せた。


「ホールへ、ようこそ。新人さん」

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