第16話

数日後、紗季乃はセリとカフェで待ち合わせた。榊は最後まで同席したがっていたが、セリに「女の子同士の話だってあるの!」と怒鳴られて渋々その場を離れる。だが一時間後には迎えにくると念を押された。


 セリは早速出来上がった写真を封筒から取り出す。これでもかなり厳選してきたという割には、枚数が多かった。


 その全ての被写体は紗季乃。


 受け取った彼女は一枚一枚、じっくり丁寧に目を通した。


「何だか私じゃないみたい。――不思議な感じ…」


 写真の中の自分は、時に鋭く、華やかで、また霞むように透明に佇む。練習用の半衣装に薄い紅だけなのに、表情は鮮やかな色を帯び、陰影を濃くし、見るものに印象を残す。


 こんな風に在りたいと思う自分が、確かにそこに写っていた。


「これが、けーすけの目に映るあなたの姿。…あいつったら、これを見せたいからって私の所に来たのよ?稽古中に時々迷ったような顔を見せるから、大丈夫だって――間違えてないってあなたに伝えるだめだけに」


 大仰に頬を膨らませた。


「自分で伝えればいいのにって怒ったわよ。だけど、けーすけは自分の言葉を受け止めてもらえる自信がないなんて、弱気な事言って!」


 ま、気持ちは判るけどね、とセリはアイスティーを飲み干した。


「結果的には、私は役得だったし。――いい仕事だったわ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る